浙江省海寧市にある「煉鎧堂」という名の鍛冶屋のようなムード漂うアトリエに入ると、鎧兜や剣、鞍などが、部屋いっぱいに並んでおり、歴史ドラマの世界に飛び込んだような気分になる。
オーナーの温陳華さんは、中国の古代の鎧数千着を自分の手で復元してきた。
ボイラーを設置する仕事をしていたが、趣味が高じて鎧を製作するプロに転身し、業界でも指折りの技術を武器に、SNSのフォロワーは100万人以上を抱えるようになっている。
「鎧を作ることで、普通の人生を送っている感じはなくなった」と温さんは語る。
1970年代に四川省内江市で生まれ、子供の頃は「三国志演義」や「岳飛伝」などの絵本が大好きだった。
中専(専門学校に相当)を卒業後、ボイラーを設置する仕事を始めたが、仕事が終ると、トランプや麻雀に興じる同僚たちとは違い、図書館に行って、鎧に関する様々な資料を読んでいたという。
「甲胄は、単なる防具ではなく、古代の職人の知恵の結晶と言える。
中国の文明は輝かしく、鎧を復元することで、文化を良い形でPRできると思う」と話す。
温さんは、「歴史上実在した鎧に可能な限り近づけて復元する」という信念を貫いている。
温さんによると、鎧は重要な軍事資源であるため、代々の王朝が引き継いだ実物は非常に少なく、実在した鎧を製作するためには、古書の記載や現存する壁画、彫刻像などを参考にして復元するしかない。
そのため、温さんは中国各地の博物館や寺をみて歩いた。
訪れた場合では10日から15日間ほど滞在して、彫刻像の鎧を模写してきた。
2008年、温さんは宋代の鎧を手始めに復元に取り掛かった。
少しでも実在した鎧に近づけるため、デザインから材料、爪の大きさほどの小さな甲片に至るまで、膨大な量の史料を参考にしたほか、上海市や浙江省などの大学の専門家にも教えを乞うたという。
「プロトタイプ鎧」を製作した後、温さんは、鎧を自ら実際に装着してみて、「攻撃に耐えられるか」を実験するという。
鎧は防具なので、作った鎧が命を守ることができないなら、花瓶と変わらない」と温さん語る。
100回以上の失敗を重ね、約3年にもわたる試行錯誤を経て、2010年についに1着目となる鎧を完成させた。
ネットに投稿したところ、鎧マニアの間で注目を集め、8万元(1元は約17.85円)で買い取りたいという人まで現れたほどだった。
温さんは現在、業界内では知らぬ人はいないほどの有名人で、ドラマ「長安十二時辰(The Longest Day in Chang’an)」を始めとするドラマや映画の制作者からも鎧のオーダーメイドの依頼が入るようになっている。
近年、漢服文化が流行するにつれて、温さんが製作した鎧も、「漢服ファッションショー」における「オートクチュール」となり、業界の垣根を越えて大きな話題となり、中国国内外のSNSの検索トレンド入りを果たしている。
温さんは、「昨年、僕が経営する鎧のショップの売上高は年間600万元を超えた。
海外からの注文も多く、こうした業績にとても驚いているし、嬉しく思う」と語る。
温さんは、「以前は、自分は普通の人生を送っていたため、人生の意義について他の人と話す気にはなれなかったが、僕にも存在の価値があると、自信を持って言える」とした。

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